この記事(以前のデータ利用に関する記事を拡張)は、GBIFサイエンスレビュー2019にも掲載されています。サイエンスレビューは、研究や政策の分野においてGBIF上のデータが利用された重要で注目に値する事例に焦点を当てています。
2018年5月上旬、テキサス州立大学(TSU)の卒業生 Mark Dekaは、南アジアと東南アジアにおけるニパウイルス(NiV)感染リスクをモデリングした研究をTropical Medicine and Infectious Disease誌に投稿しました。この論文は、博士論文の一部として1年半近く研究されたものでした。
米国オハイオ州クリーブランド出身で医学地理学領域が専門のMarkは、ベクター媒介性疾患と、疾 患伝播の地理空間的要素と地理的要素に興味を持っていました。
「多くの人々は宿主と感受性集団の感染性疾患分布において地理学と空間勾配が果たす役割に気づいていません」とDeka氏は言う。彼は2015年にテキサスに移り、ダニ媒介性疾患の研究を始めました。彼が研究でモデルを作成するためにGBIF公開データの利用を考え始めたのはこの頃です。その 後、彼がNiV研究に取り掛かったとき、これは有用であると証明されました。
NiVは、ウイルスが初めてブタから単離されたマレーシアの村にちなんで名づけられたヘンドラウイルスの類縁で、感染すると脳炎を引き起こします。オオコウモリ(Pteropus sp.)が野生生物のNiV保有宿主であると考えられており、オオコウモリの尿または唾液で汚染された生のナツメヤシ(Phoenix dactylifera)の樹液の摂取が重要な危険因子であると考えられています。
Markの研究は、生物調査データとGBIF上の_Pteropus_のオカレンスデータを組み合わせて、南アジアと東南アジアで感染リスクのホットスポットをマッピングする モデルを作成し、リスクが増加する環境特性を明らかにしました。
「GBIF.orgのデータは大いに役立ちました。ヒト伝播事例を示す単一モデルの構築だけ行う人々もいますが、我々はいくつかのモデルの重なりをマッピングし、それを測定することに関心がありました。オオコウモ リのオカレンスデータは非常に重要で、それが大量にあったのです!」
研究の結果、300万km2近くの重なり合った地域 (研究総面積の19%)に高い疾患リスクがあることが 示されました。この中には、過去に大流行が発生した ことのない南インド地方のいくつかのリスクのホットスポットが含まれています。
バングラデシュとインドにおけるニパウイルス疾患伝播リスク。2018年5月からのヒトの症例の発生地点を更新。 図はDEKA M・MORSHED N(2018)によるCC BY 4.0。
Markらが論文を提出してから数週間も経たない2018年5月19日、インド政府の国立疾病管理センターと世界保健機関(WHO)が、南インドでは初めてのケーララ州コーリコード地区におけるNiV疾患大流行を報告しました。2週間足らずの間に18人が罹患し、17人が死亡しました。
「ケーララで大流行が起きたとき、最終原稿の提出準備を進めているところでした。GBIFのモデルで正確な予測ができることに非常に感動する一方で、これら の大流行の事態を知ってぞっとしました。」
研究論文が出版されると、ドイツのワクチンのコンサルタントから、Markのもとにこの研究の結果が彼らの仕事に役立つかどうか知りたいという問い合わせがありました。
「彼らはワクチンを開発しようとしていました。開発すべきワクチンの量と対象者を把握したかったのです。 ワクチンの備蓄について話していましたが、私は一地理学者に過ぎないことを説明しなければなりませんでした。ワクチンの備蓄については何も知りません!リスクが最も高い人々、つまりナツメヤシ栽培に従事する人々を対象にしてはどうかと話しました。ワクチンを打つなら、最初に彼らを対象にするべきです。」
MarkはTSUで博士課程を終えた後、現在はジョージア州アトランタの米国疾病管理予防センター(CDC) に勤務しており、細菌疾患に焦点を当てて同様の医学地理学モデリングを研究することになっています。